おやつく後記

日常のことなど思いつき

スイーツイベントの件で思ったこと

「スイーツイベントで購入したマフィンが、糸を引いている」というツイートが目に飛び込んできた。該当店のSNSやレビューなどから、いかにその店がひどいかという話で盛り上がっている。

 

 

 

わたしもお菓子づくりが趣味なので他人事とは思えず、下世話ながら追ってしまった。自分も気を付けようという戒めの気持ちがわいたのと、今回の件は現代だからこそ起こった出来事なのかなと思った。

 

 

 

世の中は需要と供給

 

まず、今回の店の商品写真を見て、正直いうと「これが売れるのか」ということにかなり驚いた。言葉を選んでいうが、わたしが作ったとしたら、いくら味が良かったとしても、この見た目で人にプレゼントしない。しかし、例え少数でもお金を出して買いたい人がいるのだから、世界は広いなと。いや、見ただけでは分からない魅力はあるのだろう。

 

 

嫌なことを書いてしまったが、他人が何をするのも自由だ。わたしは石橋を叩きまくって壊すレベルの慎重派。気心知れたご近所さんにプレゼントするときでも、見た目や味に異常に気を遣うし、褒められても真に受けないようにしている。だから堂々としたこの店主がうらやましいとさえ思った。

 

 

この店で購入経験のある人によると、「昔は見た目も良くておいしかった」とのこと。「ならば、ここ数年の間に何かあったのでは」という推測勢によっていろいろ議論されているが、真相はさておき、それでも店が続いているのならどこかの誰かひとりでも需要があるということ。今回のような事件さえなければ、第3者があれこれケチをつけることではない。

 

 

衛生観念は人それぞれ

 

 

とはいえ、SNSを見る限り、衛生観念やその他もろもろ、心配材料はたくさんあるので、事故は起こるべくして起こったとも考えられる。購入者で重篤な人がいないことを祈るが、続けていればもっと取返しのつかないこともあり得たから、いまストップがかかったことは幸いだった。

 

 

素人の衛生管理のずさんさについて指摘している人がいるが、衛生について気になる度合いは人によって違う。気になる人は「ちゃんとしたお店以外の料理は食べられません」というし、気にならない人は本当に気にしない。衛生観念は大事だし、わたしも人のことはいえないが、現代はちょっと行き過ぎているかもなとは思う。

 

 

ちなみに、「お店なら大丈夫」というのは今回の店を見てもわかるようにアテにならない。わたしは店構えを見て、自分の衛生観に合うかどうかを判断しており、多くの人も似たような感じだと思う。かつてバイトしていた喫茶店は、個人店ながらプロ意識が高く、衛生面は完璧に近かった。そういう店は平凡だとしても手入れが行き届いていて品がある。ただし表面的に問題がなさそうな店でも適当なところは意外とある。

 

 

必ず消費期限内の食材しか使っていないと言い切れるか? 掃除をしっかりして、清潔に保っているか? トイレに行くたびに、丁寧に手を洗っているか? 

 

 

今回のような事件があればいろいろと明るみになるが、従業員を雇っていないような店主1人や家族経営の店であれば、詳細が知られることはない。疑惑なんてあげ始めたらキリがないので、現場を目撃しない限りは信用するしかない。そもそも、ここまで考えもせず、なんとなく清潔そうな店構えなら信用するだろう。逆に怪しい店は、前に立っただけで本能的に避ける。レビューがあれば参考にしつつ、最後は野生の勘みたいなものに頼るものだ。

 

 

例外として「イベント出店しているなら、主催者の厳しい基準をクリアしているからそこそこ良い店なのだろう」という思い込みがあったので、それが信用できないかもしれない、という事実を初めて認識した。今回のようなことは現時点で珍しいケースだとしても、個人店はどんどん増えているので、今後の可能性を思えば、主催者側にとってもいい転機になったのかもしれない。

 

 

 

ちなみに、「昭和の飲食店はそもそも開業のハードルが高いから、衛生もしっかりしていた」みたいなツイートをしている人もいたが、そうとは限らない。詳しくは書かないが、わたしの知り合いで某業界で働く人によると、昭和の複数の有名店で、当時知っていたら、絶対にそこで食べない(買わない)というレベルの衛生管理の店はけっこうあったようだ。知り合いは「さすがに今の時代は大丈夫だろう」といっていたが。

 

 

時代によって違うとはいえ、衛生観はピンキリ。そんなもんだと思う。「だから素人の飲食はダメだ」という人もいるが、素人からスタートしても優良店はある。ただ素人が独学で学ぶにはハードルが高いので、振り落とされる人数も多いのは確か。努力は必要だろう。衛生リテラシーが高くても低くても、とりあえず保健所に許可をもらえたら誰でもやっていい。ただ、お客さんがつくかどうかは、本人次第。あまりにもひどいなら人気は出ないだろうし、つぶれない限りは需要があるのだ(もちろん事故は論外)。

 

 

指摘する人はいなかったのか

 

この考えに変わりはないが、自分ごととして考えると、やはり「誰か周りで指摘する人はいなかったのかな?」という疑問は残る。

 

 

店主は悪意なくやらかしたようだが、今までに危うさを感じた人は1人ではないだろう。そこで、一歩踏み込んでアドバイスしたり引き止めたりする知り合いがいなかったのだろうか。いたとしても、振り切ってやってしまったのだろうか。

 

 

衛生管理が怪しい店でも続いているところは全国にもある。ただ、今回は不特定多数が集まるイベントで、店の雰囲気を知らない一見さんが買い求めるということ、通常とは異なる環境で大量に製造・販売しなければいけないこと、自分はそこに手を出す器ではない、と判断できなかったことが致命的だったのではないだろうか。

 

 

いまは、やる気さえあれば資金も少ないところから誰でも開業しやすくなった。わたしもお菓子屋さんを考えたこともあったけれど、今回のような衛生管理をふくめ、プロとしてやっていくには考えることがありすぎた。「好きを仕事に」なんて言って始めたところで、すぐに嫌気がさしそうなことが目に見えていたので今のところは趣味のまま。今回の件を見て、この感覚は間違ってなかったなと改めて思った。

 

 

すこし昔なら、飲食の開業を考えたときに、素人のやる気だけで乗り切れるものではなかったのではないだろうか。まずは修行してノウハウを学ぶか、そうでないとしても身近な人や、すでに店をやっている人から話を聞いてアドバイスをもらったり。無事スタートしたとしても、聞いてもないのに、おせっかいを焼いてくる人も多かったのではないか。ただの保健所の担当者が、店を見て心配になってアドバイスをくれる、なんてこともあったかもしれない。

そして、誰の助言も受け付けないような店なら、すぐにつぶれていたのではないだろうか。SNSがない時代なら、まずは地元で求められる店づくりをしなければいけない。それを無視してやっていけるわけがない。

 

 

個人の意志が尊重される時代

 

いまは個人の意志が尊重されるようになった反面、個人だけで判断しなければいけない事柄が増えた。おせっかいを焼きたい人も、そこで面倒なヤツという烙印を押されるのも嫌だし、逆恨みされても困る。自分のことに必死で、他人のことなんて構ってられない。

「最低限の基準をクリアしていて人様に迷惑をかけていないなら、ちょっと心配だけど、自分は関係ないことだし、やりたいならやれば?」という事なかれ主義や他人に目を向ける余裕のなくなった現代社会の歪みが、現象として浮かび上がったのではないだろうか、などと考えた。

 

 

ついでに、SNSの登場で素人でもプロっぽく見せる技術が向上したせいで、見ている方も「それなりの人(店)なのだろう」と錯覚しやすくなったのも一因かもしれない。見ている側の前提としている基準が高いので、期待を裏切られたときの落差にショックを受けるのもある程度仕方がない(今回の店はSNSの投稿を見ても疑問に思う点は多かったが)。

 

自分ごととして考える

 

今回のような事件を見て、だれが悪いとかいうのは簡単だが、現場近くにいないと分からない状況というものがあり、関係のない赤の他人がとやかくいうことではない。冷めた世間に文句が言いたくなる気持ちもあるが、それも言っても仕方のないこと。ただ、この件を知って自分ならどうするか、ということはいつも考えたい。

 

 

まず、わたしが店主なら。

客観的意見を自ら取りにいかなければいけないし、常に「何か忘れていることはないか」という意識を忘れずにいたい。これまで通り、臆病なまま、石橋を叩きまくって歩いていこう。

 

 

わたしが周囲の人間なら。

おせっかいを承知で、ダメなものはダメといおう。ちょうど最近、リスクマネジメントが雑すぎる人間を相手に、おせっかいを承知で批判と提案をしたが、まあ嫌な顔をされた(笑) しかしわたしが言わなければ誰も言わないことを知っていたので、それでもひるまなかった。相手のためになっているかは分からないが、わたしはこれで良かったと思う。いうべきことは言ったから、あとは自分で判断してくださいと。

 

 

わたしが、もっと関係の薄い第3者なら。

本人に厳しく言えたらいいが、ほとんどの場合でそうはいかないだろうから、少なくとも本人にはやんわり、周囲にも何か助言をしよう。

 

 

優しい世界というのは、無条件に相手を認めるだけではなく、時には諭す関係性だと思う。

 

 

そういえば、祭りの屋台なんて衛生状況は悪いと思うのだが、今はどうなのだろう。生地の入ったポリバケツを直に道路に置いたりしているのを普通に見かけたものだが、「そんなものだろう」と特に気にしたこともない。

 

別の場所から出来上がりを持ってくるのと、その場で作るのは違うので同列には考えられないが、衛生面でいうとどっちもどっち。衛生系の事故というのは、運も味方しているのかな、なんて思う。

 

そこで買い手としてのわたしができることがあるなら、自分で選び取る勘を養うことと、少しくらい変なものを食べても大丈夫なように免疫をあげておくこと、だろうか。