おやつく後記

日常のことなど思いつき

「唐揚げにレモンをかけますか?」

いま放送しているドラマの脚本家が坂元裕二を尊敬しているらしい。へえ、そうなんだと思っていると、タイミグよく動画サイトのおすすめ一覧に、7年前の同氏のドラマ「カルテット」が出てきたので、懐かしくなって見てみた。

 

 

 



 

 第1話の「”唐揚げにレモンをかけるか”問題」の話を見て、忘れていた記憶がよみがえった。

 

 

共同生活を始めたカルテットの4人が夕食で出た唐揚げについて議論するシーン。

 

 

――大皿に乗った唐揚げに、黙ってレモンをかける別府司(松田龍平)と世吹すずめ(満島ひかり)を見て、家森諭高(高橋一生)が「なぜレモンを勝手にかけるのか」と制止する。2人はなぜ止められたのか分からない。「レモンが嫌いだった?」と聞くと諭高は「そうではない」という。巻真紀(松たか子)に意見を求めると「レモンをかけたくないかどうかが問題なのではなく、レモンをかけるか”聞く”ことが大事なのではないか」といった――

 

 

わたしはこれ以降、唐揚げレモンをはじめ、大皿料理に何かをかけるときは必ず確認を取るようになった。ドラマ以前も聞いていたような気もするが、意識するきっかけは確かにこれだった。今までそんな風に考えたこともなかったのだが、今回7年ぶりに見て、まさかドラマがきっかけだったとはと驚いた。

 

 

唐揚げにレモンをかけることに大多数の人が抵抗はないだろうが、その意見が全員一致しているとは限らない。それを食べる人たちに確認を取ることは、相手を尊重するという意思表示なのだ。

 

 

わたしの場合、同席者に確認した際に「レモンをかけるな」といわれたことは一度もないし、わたしもレモンを勝手にかけられたところで別に何も思わないのだが、嫌な人もいるかもしれない。今だと、レモンの好き嫌いよりも、他人の絞ったレモンに抵抗を示す人の方が多いだろう。

 

 

唐揚げではないが、数年前に家族で鍋をしたとき、反省したことがある。

 

 

いまでは大人数で鍋を食べるときは、直箸厳禁が当然だが、わたしが学生の頃は自分も周りも気にしていなかった。新社会人の頃に嫌な人もいることを初めて知り、今ではすっかりなじんでいる。でも家族の食事は例外だった。

 

 

家族だから気遣いは不要だ。しかし、数年前から義姉が加わっていたことを忘れていた。鍋をしたとき、みんな直箸の中、義姉はあからさまな態度はとらなかったが、明らかにためらっていたのを見て、はっとした。いくら夫の家族でも直箸が嫌なのは理解できた。

 

 

わたしは誰が相手でも直箸など気にしたことがなかったので、当初は嫌がる人を見て「潔癖だな」と思っていたのだが(周りに合わせているうちに抵抗が出てきたが)、育ってきた環境が違えば価値観も千差万別。自分が多数派と思っていても違うかもしれないし、多数派だとしても少数派をにぎりつぶしていい理由にはならない。

 

 

今回は嫌悪感が出やすい食事の話だったが、それに限ったことではない。日々の小さな思い込みは、知らないうちに他者に違和感や嫌悪感を抱かせているかもしれない。全方位に気を遣って自粛する必要はないけれど、「自分と他人は意見が違うかもしれない」という大前提は忘れずにいたい。

 

 

 

 

ちなみにドラマのその後のシーンで、「『レモンかけますか?』と聞かれて、『かけません』なんて言えないだろう」「じゃあ、何て言えばいい?」ということで少しモメていたが、そこまで気を遣えというのは勘弁してほしい。

この人たちは美容院で「かゆいところがありますか?」と聞かれて、あっても言えないタイプなのだろう。

 

 

ただのドラマのワンシーンが、その後の自分の行動を変えてしまうなんて面白いなと思った。いや、無意識なだけで意外と刷り込まれていることはあるかもしれない。

 

 

最近、ドラマを1本見る集中力がないので、人生に影響を与えた唐揚げのシーンは別として、飽きたら適当なところで切り上げようと思っていたのが、久しぶりに最後までのめり込んでみてしまった。坂元裕二はやっぱりすごい。

 

 

 

ところで、坂元裕二を尊敬しているという若手脚本家のドラマを今期初めて見ているのだが、けっこう好きな反面、仄かなわざとらしさが気になる。坂元裕二という事前情報が邪魔をしているかもしれない。

 

 

ある人が「真面目なものづくりは素晴らしいが、真面目さを押し出すものづくりはダサい」というようなことをSNSでつぶやいていて、それだ、と思った。確かに、いまどき珍しく正統派で丁寧に作ったことがよく分かる。が、それを前面に押し出されると、見ている側は興ざめする。真面目だから良いのではなく、単純に面白いと思ったドラマが、実は真面目に作っていた、と後で知るくらいがちょうどいい。

 

 

 

火曜ドラマ『カルテット』|TBSテレビ